きっぷ片手に旅をする

公共交通利用が中心の旅行記がメイン。月3回程度のペースで定期更新中。

さよなら留萌本線の旅 Day1

 留萌本線は,北海道の空知地方にある深川から,日本海に面した留萌までを結ぶ50.1kmの路線だ。沿線から産出される石炭の輸送や,留萌港などで水揚げされる海産物の輸送などが主な使命であった。当初は留萌から先の増毛まで足を伸ばしていて,さらに羽幌線や炭鉱鉄道が留萌本線から分岐してあったが,いずれもすでに全廃されている。

 そしてついに2023年3月末をもって留萌本線石狩沼田~留萌間が,2026年3月末に深川~石狩沼田間が廃止されることが2022年に決定した。

留萌本線とその周辺。地理院地図 Vector より。

 留萌本線は留萌~増毛間廃止(2016年)の後,2018年に一度だけ乗ったことがあるが,その時点でも沿線利用者は皆無で,この鉄路に未来はないことが明白だった。今回の廃止確定の報を受けて,留萌観光をしっかりしておきたかったのと,真冬の留萌本線で乗り納めしておこうということで,廃止直前のこのタイミングで乗り鉄をしに行った。

 

旅のスタートは深川駅

旅の起点は深川駅

 自宅から約6時間,飛行機と鉄道を乗り継いで深川駅に到着。乗る予定の13:28発留萌行き(4927D)に乗車する予定だが,廃止直前で同業者が多いことを見越して,深川駅には1時間以上早くに到着。駅前のパン屋で昼食を買ったり,駅の中の物産館で幌加内そばをお土産に買うなどして時間を潰す。

 そして札幌からの特急が来る前に改札を入り,一番乗りで留萌行きの普通列車を待つ。このときの深川は手元の温度計で-6℃くらいあったが,晴れで天気は穏やかで,厚着をしてきたからホームで待つのは苦ではなかった。やがて特急から乗継客が降りてきたが,この日留萌線に乗る客は30名ほどで思ったより多くはなかった。

深川駅6番線を除雪するモーターカー。晴れていても除雪作業は必要

 目の前の6番線をモーターカーが除雪作業をしている。晴れていても,線路に残った雪を線路外に雪を飛ばす作業が必要らしい。雪とたたかう鉄道マンの苦労に頭が上がらないと思うとともに,収入が少ない線区でかつほとんど使わない線路*1であっても経費がかかるという現実を目の当たりにする。

 

留萌本線 4927D

4927D 留萌本線留萌行き キハ54-511

 乗車予定の留萌行きは折り返し列車が深川駅手前でポイント不転換で運転を見合わせていて,予定より20分ほど遅れて入線してきた。留萌方面からやってきた人をおろして,いったん車内清掃をしてからドアが開く。クロスシートの進行方向左側に座ると,遅れていることもあり落ち着くまもなくすぐに発車した。

 列車は深川を出ると,空知平野の田園地帯を眺めながらの車窓となる。秩父別のあたりで,立派な構造の高速道路が見える。深川と留萌を結ぶ深川留萌自動車道だ。留萌本線の沿線にはこの高速道路と国道がほとんど完全に並行し,札幌へ行く高速バスや旭川へ行く路線バスが走り,こちらのほうが運賃も本数も優位となっている。立派な道路網は公金が投入されいくらでも地方に伸びていくが,鉄道は自助を求められたあげく,それに代わってどんどんと縮小していく。

空知平野を走る留萌本線

 石狩沼田を出ると,今年3月に廃止となる区間に入る。真布のあたりまで空知平野の雪原が広がるが,恵比島のあたりからは増毛山地の山越えとなる。恵比島はテレビドラマの撮影で架空の駅「明日萌駅」として使われたらしく,恵比島の名前より明日萌のほうが目立っている。ここでようやく地元らしき方が下車。

廃止区間の古い駅舎を残す停車場(恵比島・峠下)

 坂を登り,小さなトンネルを2つだけ越えると,あとは下り坂で峠下に到着。ここは留萌本線で唯一となった交換駅である。こちらの駅では,地元らしき方が見物に来ていた。駅だけでなく列車には地元の方の「お名残乗車」もちらほら見られ,廃止前のちょっとしたフィーバーになっていた*2

 峠下を出ると留萌川沿いの谷間を走る。小さな駅を何駅か過ぎると,終点の留萌に到着。深川から1時間ほどなので,ちょっとした小旅行という気分。

留萌駅に到着

 留萌駅は駅本屋に接した1番線に到着。駅舎から大きく伸びた屋根が立派で,あと3ヶ月で廃止になるとは思えないほど。さらに跨線橋を伝って2番線・3番線ホームがあるが,こちらは増毛廃止に伴って利用停止になっている。さらに羽幌線があったときはその向こうに貨物ヤードと羽幌線ホームがあったらしい。

 留萌駅に降り立ったのは,ほとんどが深川からの乗り通しの客だった。留萌駅は有人駅なので集札があり,駅員にきっぷを差し出して無効印を捺してもらう。

留萌駅駅舎

 留萌駅駅舎はいかにも国鉄の無骨な表情をする駅という感じ。かつてはこの駅舎に多くの職員が詰めていたのだろう。留萌駅廃止後は再開発され,駅跡地には庁舎機能備えた複合施設が作られることになっていて,この駅舎はもうまもなく見納めだ。

留萌駅の遠景

 留萌駅を出て道の駅るもい*3のほうに歩いていくと,留萌駅の遠景を見ることができた。こうして見ると広大な駅構内を持て余しているようにも見え,さきほどまで乗っていたキハ54がかなり小さく見える。それでも時代とともにどんどん小さくなっていった留萌駅だが,まもなくこの地から列車の音が消え,駅ごと消えるさだめにある。

 

留萌市内を散策

留萌市内を散歩し,夕食は海鮮丼

 この日は留萌泊。留萌線の見物はこのあたりにしておいて,あとはのんびりと留萌市内を散歩する。留萌は海沿いの港町なのだが,日本海側とあって降雪量は多め。路肩にたくさんの雪が積まれていた。人口2.2万と規模的には小さく,歓楽街を歩いていてもあまりひとけは無い。

 夕日で有名な黄金岬を見た後,夕食に寿司屋に入って海鮮丼をいただく。日本海の海の幸が詰まったゴージャスな海鮮丼で,とても美味で夢中で食べているうちに気づいたら丼がカラに……。ごちそうさまでした。

*1:深川駅6番線は定期列車が1日1本しか入らない

*2:といっても,それらしき方は数人しか見かけなかった

*3:船場公園にある道の駅。羽幌線廃止にともなって不要になった留萌駅構内の一部を公園化した