江ノ島電鉄線は,藤沢~江ノ島~鎌倉間を結ぶ単線の鉄道路線である。……と言わずとも日本屈指で有名な鉄道路線のひとつであり,沿線住民の通勤通学用途のほか,観光需要が極めて高く外国人利用客も多い。
そんな江ノ電だが,2023年4月15日からクレジットカードのタッチ決済乗車を開始した。Visa など国際ブランド決済に対応したタッチ決済対応のカード(クレジット・デビット・プリペイド)やスマートフォンなどによる鉄道乗車(以下,タッチ決済乗車)ができるようになった。首都圏の鉄道路線では初のタッチ決済導入だ。さらに5月15日にはタッチ決済実質無料キャンペーンを行い,当日に限ってタッチ決済の利用者であれば無料で江ノ電に乗車できた。
そこで5月15日に仕事帰りに江ノ電に向かい,タッチ決済で乗車してきたのでレポートをまとめてみたい。
タッチ決済乗車レポート
江ノ電の改札まわりには Visa がプロモーションしたと思われる青い横断幕が掲げられている。後述するが改札が無い駅向けのポール型改札機も青系統のカラーリングなので,タッチ決済=青ということで統一しているようだ。
タッチ決済用の改札機は二種類ある。自動改札機が設置されている駅では駅員がいる側の通路にある簡易改札機のカードリーダにタッチする。自動改札機が設置されていない駅ではポール型改札機のカードリーダにタッチする。それぞれ入場用・出場用の改札機が用意されている。
すでに導入している南海電鉄や泉北高速鉄道のように,タッチ決済用の自動改札機はまだ導入されていない。今後の利用者数を見て導入を検討するのだろうか?
乗車するときはタッチ決済機能付きのクレジットカードで入場用カードリーダにタッチすると,「○PASS」の表示が出て入場することができる。下車するときは出場用カードリーダにタッチすると「○260円」の要領で利用した運賃が表示される*1。
なお,クレジットカードでの乗車なので,カード利用時には本来オーソリ処理が必要だ。しかし入出場時にオーソリ処理は行わず,入場時にカードの有効性のみを簡易的にチェックしている。
ユーザ体験という意味では,PASMO など交通系ICカードで乗車するのと大きな違いはない。あるとすれば運賃が後払いになることと,交通系ICカードよりも少し長めにタッチする必要があることだ。
江ノ電のタッチ決済。
— ashizin (@ashizin) 2023年5月15日
クレカのタッチ決済は交通系ICカードに比べれば処理速度が遅く、交通系ICカードの気分でタッチすればほぼエラーになる。
しっかりタッチしないといけないので入出場時のタッチで立ち止まる人が多く、藤沢や鎌倉のような乗降者数が多い駅ではちょっとした待ち列もできていた。 pic.twitter.com/xtfbDqVf9b
交通系ICカードは首都圏の大量の旅客をさばく必要があることから,処理速度が 200ms 以内で完結することが求められる。一方で,タッチ決済は 500ms 以内であれば良いことになっている。カードリーダにタッチしてから「○PASS」表示が出てくるまで(交通系ICに比べれば)気持ち時間がかかるという印象は否めない。
この日はタッチ決済無料乗車キャンペーンの日だったので,多くのタッチ決済利用者を見ることができた。ほとんどの利用者が戸惑いなくタッチして乗車・下車ができていたようだが,上記の処理速度の遅さから,ほとんどの人はタッチする際に立ち止まっていた。何人か連続でタッチするような状況ではタッチ待ちの列ができる始末であった。
あとがき
江ノ電は外国人の利用も多く,すでに海外では当たり前のタッチ決済で江ノ電に乗ることができれば,日本円の現金を扱ったり,ガラパゴスな交通系ICカードを利用するより利便性が高いだろう。いわゆる「コロナ禍」も落ち着いて,外国人観光客数も増えてきた。さらに江ノ電でのタッチ決済乗車の利用者数が増えれば,タッチ決済専用の改札機が導入されたり,決済処理速度が改善されたりすることもあるかもしれない。
筆者は鉄道のタッチ決済乗車には大きく期待している。後で請求すれば良いから,たとえば一日乗車券を買わずとも何回か乗車して一日乗車券の金額に達したら,その日の乗車は一日乗車券分の運賃だけ引き落とす,といったことも可能になる。さまざまな鉄道の利用シーンに関わらずクレジットカード一枚で済む。
もし鉄道のタッチ決済乗車の需要が増えてきたら,交通系ICカード,特に Suica の共通基盤化を目指すJR東日本にとっては目の上のたんこぶだ。独占的な立場から利用者目線を逸脱した施策を平気で行っているが,危機感があれば利用者にとって有利なアクションをとるかもしれない。タッチ決済乗車が「公共交通の乗車カード=交通系ICカード一強」という勢力図を書き換えることにも期待している。
首都圏でのタッチ決済乗車は江ノ電のほか,空港リムジンバス等の一部で利用可能だ。さらに東急がタッチ決済乗車を2023年夏に導入予定だ。今後の動向を注視したい。
*1:無料キャンペーンを行っているので,実際に請求される運賃は0円