上毛線は群馬県にそびえる赤城山の南麓を横切って前橋と桐生を結ぶ地方鉄道です。群馬県方面への用事が少ないのもあってなかなか訪問に至らなかった同線ですが,太田市に野暮用があったのと,デハ101臨時運行の運転日が重なり,ようやく訪問となりました。
起点の中央前橋駅。JRの前橋駅から1kmほど離れていますが,中央前橋駅のほうが百貨店や商店街などが立地する中心市街地に近く地理的に有利。前橋駅と中央前橋駅間は連絡バスや前橋市郊外へのバス路線で結ばれていて,上毛線の有人駅では上毛線から連絡バス経由で前橋駅ゆきの連絡乗車券も発売されています。
上毛線では全駅で自動改札機が未設置でかつ交通系ICカードに対応していません。有人駅では列車の到着にあわせて駅係員が改札に立って集札・改札を行います。関東ではこのような光景を見られる場所は希少になりました。
列車に乗り込み桐生方面に向かいます。赤城山の火砕流によってできたなだらかな台地を横切る同線はトンネルや急勾配もなくのんびり運転。上毛線沿線はDID(人口集中地区)が中央前橋駅と赤城駅~桐生駅間にしかありませんが,それ以外の区間の沿線にも住宅がまばらにあり,それに対応するように(並行するJR両毛線と比べれば)短い間隔で駅が設置されています。
列車内や駅で乗客の動きを観察していると,自転車を押してそのままナチュラルに列車に乗り込む乗客が見られます。上毛線では,自転車を折りたたんだり輪行袋に入れずに自転車を列車内に持ち込める「サイクルトレイン」という施策を2005年から行っています。
自転車を列車に持ち込むことで,鉄道と自転車という異なる交通手段に連続性が確保され,クルマを利用せずとも人々の行動範囲は格段に広がります。そこで中小私鉄を中心にサイクルトレインを行っている路線はいくつかあるようですが(参考:wikipedia),利用できる列車や駅が指定されていたり,持ち込み料金が必要な場合があります。
一方で上毛線は「平日朝ラッシュ時間帯・混雑時以外はいつでも利用可(後部車両に限る)」「全駅利用可」「持ち込み料不要」となっていて,サイクルトレインを利用する際の障壁がかなり低くなっています。沿線住民は「混んでいなければ自転車ごと乗れる」くらいのことさえ覚えていれば自転車を電車に持ち込めるわけです。これほど利用しやすいルールでサイクルトレインを運用できるのは,起終点が頭端式ホームであったり,自動改札が未整備である上毛線の駅構造が幸いしたものなのでしょう。
そんな気軽さのためか,日中帯に上毛線の列車を何本か利用しましたが,老若男女,年配から高校生まで広い層の乗客が自転車の持ち込んでいる様子を頻繁に見ることができました。日本全国の鉄道をすべて乗っているわけではないのでハッキリしたことは言えませんが,これほど自転車の持ち込みの多い鉄道路線もなかなか無いように思えます。今では年40,000台以上*1の利用があるそうです。
ちなみに今回は利用できませんでしたが,上毛線有人駅では無料レンタサイクルの貸出も行っていてもちろん列車内に持ち込み可能。なかなかできないサイクルトレイン体験もいつかはしてみたいものです。
この日は大胡駅での上毛電鉄イベントに合わせてデハ101の臨時運行が行われました。1928(昭和3)年の上毛線開業からの生え抜きで,製造から既に90年近く。戦前製の車両ですがイベント運行や工事列車運転のために現在も時折運行されています。
車内もレトロでノスタルジックな雰囲気。冷房がなく夏場なのでちょっと暑かったですが,いざ動き出せば窓から涼しい風が入ってきて心地よい。大きく唸る吊り掛け駆動のモーター音を聞きながらの乗車は格別でした。こんな貴重な車両に乗車券のみで利用できるなんて嬉しいですね。どうしてもこういう列車はヲタ列車になりがちで実際その割合は大きかったのですが,この日のデハは2往復運転で乗客が分散したのか,席が埋まって少し立ち客が出るくらいの乗車率でした。
この日はデハ101を赤城駅まで乗り,その後東武特急りょうもう号で帰宅。サイクルトレインや未だに戦前電車走らせる上毛電鉄に自分が今まで持っていなかった新たな鉄道観を植え付けさせられた1日でした。
*1:参考:上毛電気鉄道 サイクルトレイン/レンタサイクル 単純計算で1日110台,上下74本走っているので1本あたり1~2台は乗っていることになる。