きっぷ片手に旅をする

公共交通利用が中心の旅行記がメイン。月3回程度のペースで定期更新中。

常磐線 帰還困難区域を通り抜けて

 あの震災で東北地方太平洋沿岸を走る常磐線津波による大きな被害を受けました。津波による被害を受けた区間はこの6年間で着々と復興が進行してきました。しかし,原子力発電所のトラブルがおきた浪江~竜田間では,放射能汚染に阻まれて未だに再開できない状態になっています。

 その最後の不通区間にも代行バスが運行され,常磐線不通区間を介した通過交通が一応確保されています。10月の初め,原発周辺の地域を実際に自分の目で見ることも兼ねて,不通区間のある福島県浜通り地区の常磐線乗り鉄してきました。

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常磐線 原ノ町→浪江

 不通区間代行バスは早朝と夕方のそれぞれ1往復しかないので,早朝の上り代行バスに乗るためにこの日は原ノ町駅前のビジホで前泊。朝6時にチェックアウトし原ノ町駅からこの日1番の浪江ゆきに乗車。

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 かつて原ノ町駅からの上り電車は小高止まりでした。浪江町の一部区間の除染・生活基盤の復旧が進んだ結果,2017年4月に小高~浪江間の運転が再開し現在の運行体系となっています。

 1番電車の浪江ゆきは私と1人だけ乗せて原ノ町駅を発車し,いくつかの丘陵を抜けながら田園地域を抜けつつ常磐線を南下。途中でいくつかの駅がありますが,ここでの乗り降りはなく終点の浪江駅に到着。

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 電車はすぐにそそくさと原ノ町駅へ折り返していきましたが,その電車に乗る人はいません。原ノ町~浪江間は8往復の普通列車が走っていますが,この地域は避難指示地域から解除されたばかり。実際のところ沿線人口はほとんどまだ戻っていないのでしょうね。

 浪江駅からのバスは乗り継ぎに1時間の余裕があるので浪江駅周辺を散策してみます。駅からのメインストリートを歩いてみると,道路沿いの商店や病院はあの日以来手付かずといった感じで草臥れた状態であることがわかります。

 浪江駅から北に徒歩10分。浪江町民が集っていたであろう商業施設に来てみました。

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 歩道は草ぼうぼう,窓ガラスが割れたままの建物もいくつか。スーパーの中を覗いてみるとがらんとしていましたが,隣のゲーセンにはスーパーの商品と思われるモノが詰め込まれていて異様な雰囲気となっていました。

 このような景観ばかり見ていると廃墟の町同然とすら思えてしまいますが,浪江駅周辺に戻っている人は確かにいて,早朝なので散歩している人や仕事に出かける人も見かけました。

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 ただ浪江駅前で感じ取れた生活の匂いはこの衆院選のポスター掲示場くらい。営業しているコンビニやスーパーは歩いた範囲では見当たらず。。浪江駅前の復興は始まったばかりです。

代行バス 浪江駅→竜田駅

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  竜田~浪江間(2017年10月21日以降は富岡~浪江間)は,原発トラブルによる避難指示区域。放射能汚染の影響もあり,開通は2019年度末までずれ込む見込みです*2。この常磐線最後の不通区間は1日2往復のみ(旅行当時)の代行バスを利用する必要があります。

 現在,避難指示区域の帰還困難区域を通行可能な交通網は国道6号常磐自動車道のみ。 バスはこの国道6号を通行していきます。

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 浪江駅前で発車待ちの代行バス。乗り込んだ時は私だけの乗車でしたが,原ノ町からの列車が浪江駅に到着すると10数人の乗り継ぎ客が乗車してきました。

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 バスは国道6号を南下して双葉町へ。この浪江-双葉町境が帰還困難区域との境界。ここからは人が住むことができないエリアになります。事故から6年以上経った今では野生動物たちの王国になっているようで,動物注意の看板がかなり見受けられました。実際,乗車していたバスもイノシシの直前横断で急ブレーキを踏む場面も……。

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 帰還困難区域と国道6号の間には頑丈そうなバリケードで固められています。バリケードの向こうには不通になっている常磐線の踏切が。

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 バスはやがてトラブルが起きている福島第一原発の付近を通過。この一帯を通過すると,さすがに車内の空間線量がちょっと上がります。

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 バスはやがて大熊町熊町の街村を通り抜けていきます。バリケードで固められゴーストタウンと化したこの街道集落は,この地域の現実を突きつけてくる象徴的な景観で深く印象に残っています。

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 大熊町を抜けて帰還困難区域を出て富岡町に入り,運転再開間近で駅の整備が進む富岡駅*3に立ち寄ったあと,竜田駅に到着。

常磐線 竜田駅いわき駅

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 竜田駅からは再び列車で南下します。太平洋を見ながら南下し,広野・久ノ浜といった主要駅でたくさんの乗客が乗ってきて電車内が活気づいてくると,いわき駅に到着。この区間ではまったく震災があったことなど感じさせない車窓でした。この1時間前に代行バスで見ていた景色とのギャップがすごい。

 

旅行後記

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いわきマリンタワーからの景色

 

 震災の影響で福島県浜通りは大きなダメージを受け,たとえば観光入込客数は大きく減少しました。しかし震災から6年で復興は進み,震災前までほどではありませんが観光入込客数も増えてきています*4。一方で原発周辺では未だに人の住めない環境で,家に戻れない人もたくさんいます。原ノ町といわきの間を旅してこのような浜通り地区のニ面性を知ることができたのは今後の大きな糧になったと思います。

 2017年10月21日には竜田~富岡間が再開され,富岡~浪江間の不通区間を抜ける代行バスの本数も増えています。確実に常磐線の運転再開は進み,沿線の復興も進んでいくでしょう。2019年度の全線再開に向けて,常磐線不通区間には今後も注目していきたいですね。

*1:

常磐道を利用される方へ ~高速道路周辺の道路情報~ | NEXCO東日本 常磐道を利用される方へ :2017/10/22閲覧より,画像引用

*2:

JR常磐線の状況 - 福島県ホームページ:2017/10/22閲覧

*3:旅行当時。2017/10/21に竜田~富岡間運転再開。

*4:福島県商工労働部「福島県観光客入込状況」(2017)。