JR北海道,JR東日本,JR東海,JR西日本は一斉に2024年3月16日をもって新幹線と在来線特急列車*1の「乗継割引」(以下,乗継割引)を全廃することをプレスリリースにて発表した*2。
各社のプレスリリースを要約すると,廃止の理由として以下のように説明している。
乗継割引を利用する旅客が減少している
デジタル化やネット予約の普及など社会が変容した
経営環境が変化した(JR北海道)
乗継割引はJR九州が2011年に廃止したのを初めとして,2020年に「踊り子」などで列車を指定しての乗継割引不適用,2022年にJR四国での廃止など,部分的に制度が縮小してきた。
新幹線と在来線特急列車の「乗継割引」とは
新幹線と在来線特急列車の「乗継割引」とは,以下の条件をすべて満たした場合に在来線特急列車の特急料金を5割引とすることができる制度だ*3。
上記さえ満たせば在来線特急列車の特急料金が5割引となるため,利用者にとって乗継割引は割引率が大きい上に利便性が高く,有利な割引制度であった。規則上の割引制度であり,発売枚数や発売期間の制限はない。
では,実際に乗継割引を適用させる利用例と,乗継割引が適用されたきっぷの例を見てみよう(乗車券は省略)。マルス端末で発行される乗車券類の場合,割引が適用される在来線特急列車のきっぷには右下に大きく[乗継]の割引印章が,新幹線側のきっぷには小さく「乗継」の印字が入る。ただし,新幹線側のきっぷの「乗継」印字は任意乗継機能で発券しない場合などで,省略されることがある。
東海道新幹線の特急券と「伊那路」の特急券を同時に購入することで,「伊那路」(豊橋→飯田)の特急料金2,590円が1,290円(1,300円引き)となる。
「サンライズ瀬戸」(ソロ)の特急券と,東海道新幹線の特急券を同時に購入することで,「サンライズ瀬戸」(ソロ)の特急料金2,220円が1,110円(1,110円引き)となる。寝台料金は割引が適用されない。また,幹在同一の考え方から乗車券は浜松で打ち切って2枚の連続乗車券となるが,このような例でも乗継割引の適用は可能である。
新幹線との乗り継ぎが意識された列車はまだ多数
乗継割引は1965年の東海道新幹線開業直後から存在する。乗り換え無しで行けたところが,新幹線開業によって新幹線と在来線急行・特急を乗り継ぐ輸送形態になったことで,料金が割高になることから始まった制度だ。現在も新幹線と在来線特急を乗り継ぐことが強く意識された輸送形態となっている列車は多数ある*8。先日「伊那路」に乗った際,途中駅で下車したときの着札のほとんどが「乗継割引」が適用された特急券だった。
また,当初の割高感をおさえる理由の副次的作用として,マイカーでドア to ドアで行ける世の中で「乗り換え」は一般的な利用者にとっては不便な存在であるから,割安となることで心理的な乗り換えに対する負担感を減らすことにも一役買っていたはずだ。
ネット予約の普及が理由というけれども……
乗継割引とは前述の通り利用者にかなり有利な制度である。また,国鉄分割民営化に伴い,新幹線と在来線特急で異なる JR の場合は在来線特急側の JR は単純に減収となる。JR にとって都合の悪い制度であったことは間違いないだろう。しかし,JR 各社は協調して現状にそった乗継割引制度への再設計を行わなかった。たとえば,北陸新幹線敦賀延伸に伴って,富山~敦賀間の新幹線と敦賀~大阪・名古屋間の在来線特急列車を敦賀駅で改札を出ないで乗り継ぐ場合は割安な料金(幹特在特)が設定されるが,そのような仕組みを全国の新幹線・在来線特急列車網に適用することはできたはずだ。
そしてこれまで乗継割引の存在を利用者には積極的にはアナウンスせず,ネット予約等も「トクだ値」等の利用者にとって制約が大きい「自社にとって都合が良い」割引しか広めてこなかった。旧えきねっとに存在した「乗継」予約は2021年のリニューアルによって姿を消した。そのような状態で「乗継割引を使う利用者が減った」といっても,どの口が言うかという話である。
乗継割引廃止後もネット予約商品で代替するという一部 JR もあるが,割引率が低くて列車や席数に限定がありいつも売り切れ状態で景品表示法違反ギリギリのえきねっと「トクだ値」のようなもので代替となるはずがない。少なくとも乗車直前に在来線特急と新幹線を買って割引が適用されなければ代替とはならない。
乗継割引の廃止から見える JR の思惑
JR 各社は列車やサービスを廃止するときにいつも「社会が変わった」とか「利用する人が減った」などと宣うが,これは JR にとって都合の悪い発表をするときに使われる常套文句だ。結局のところ,JR北海道だけでなくJR本州三社も経営環境が悪い方向に変化していく中で,割引率の高い乗継割引が適用されると JR の収益に寄与しないし,自社が展開したいサービスとそぐわないので廃止したいのだ。JR 各社は国鉄時代に築き上げた広範な鉄道ネットワークを分断することによる,自社の収益の最大化ばかりを考えている。
JR は税金で作られた国鉄を引き継いだという経緯があり,協調してサービス面も含めた国鉄時代以来の鉄道ネットワークを維持する責任がある。国鉄が地域ごとに分割された以上,利用者は好き好んで特定の JR 一社だけを利用できるわけではないのだ。
利用者は鉄道だけでなく高速バスや航空機,マイカーといった競合するモードの中から交通手段を選んでいる。日本の隅々まで国道や高速道路が整備されて道路交通が充実している一方で,ただでさえ鉄道は不便なうえに料金が高いのに,JR がこのような改悪を続けていっているようでは自分で首をしめていっているようにしか見えない。
次回の記事で,2024年3月時点まで残った乗継割引の一覧を掲載する。
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*1:現在の JR には急行列車の定期運用がないため省略するが,急行列車にも適用される。以下同じ
*2:JR北海道プレスリリース,JR東海プレスリリース,JR東日本プレスリリース,JR西日本プレスリリースを参照
*4:定員2名以上の寝台個室を利用する場合,特急の個室を利用する場合,新青森~青森間で特急列車に乗る場合,「踊り子」「サフィール踊り子」「湘南」「WEST EXPRESS 銀河」に乗車する場合を除く
*6:上越妙高駅に直通して運転する急行列車に乗車し,上越妙高駅で新幹線と乗り継ぐ場合に限る。