この7月,新たな日本一が誕生しました。それは日本一標高の高いところにあるバス停です。
そのバス停があるのは北アルプスの乗鞍岳の高山地帯にある「標高2716m」バス停。8月のはじめ,乗鞍・上高地観光のついでにそのバス停を利用してみました。
乗鞍岳ご来光バスに乗車
日本一高いところにあるバス停,その名も「標高2716m」バス停は乗鞍岳へのご来光バスかシャトルバスで利用できます。この日は乗鞍岳からのご来光を拝むために「ご来光バス」に乗車します。
ここは乗鞍岳の長野県側の山麓にある乗鞍高原。夏季はアルプス登山,冬季はスキーと一年中楽しめる場所です。朝(深夜?)3時すぎに旅館を出発して,満天の星を眺めながら「乗鞍高原観光センター」バスターミナルからアルピコ交通のご来光バスに乗車します。
「ご来光バス」は夜明け前に乗鞍高原を出発して乗鞍岳の標高2700m~2800m付近でご来光を眺めるために運行されているバス。乗鞍岳ではマイカー規制がされているため,乗鞍岳からご来光を拝むためにはこのバスに乗らなければいけません。
アルピコ交通・乗鞍岳線は全線が山岳区間で必ず着席することを求められます。そのため(座席数の多い大型バスとはいえ)座席のぶんの旅客しか乗車することができません。おまけにバスの発車は朝の3:30~4:10*1です。そこでアルピコ交通では複数台のバスと乗務員を乗鞍高原で宿泊させ,天候や見込み乗客数を予測してバスを運行させています。
この日のバスは3台(+予備2台)が用意されていましたが,ちょうど3台めの席がほとんど埋まったあたりで出発となりました。アルピコ交通の担当者の需要予測に思わず感服でした。
日本一高いところにある「標高2716m」バス停へ
バスは乗鞍エコーラインに入りぐんぐんと山登りして標高を上げていきます。位ヶ原山荘くらいまで針葉樹林が広がっていたと思えば,森林限界を越えて標高2500m付近からハイマツ地となり車窓がひらけ,標高2600m付近からは万年雪も見えるようになりました。このような高山帯独特の風景をバスから見て,凄いところまでバスで来てしまったなと思わざるを得ませんでした。
乗鞍高原を出て50分,バスは終点「乗鞍山頂(畳平)」のちょっと手前にある,日本一高いところにあるバス停である「標高2716m」バス停で下車。ご来光を眺めるためにほとんどの乗客がこのバス停で下車します。
このバス停があるあたりは乗鞍岳尾根の峠の部分,長野県・岐阜県境となっており,マイカー規制以前は自動車で走れる道路としては日本最高地点となっています。つまり,ここが日本一高いところにあるバス停ということは自明なのです。
バス停の周辺は火山由来の黒い石(スコリアや軽石)が見られて荒涼としていますが,峠部分でかつ高山帯で高い木がないため見晴らしがとてもよくなっていて文句なしの「ご来光絶景ポイント」となっています。
▲日本一高いところにあるバス停「標高2716m」の周辺。
▲尾根上に県境があり,県境を引くとこんな感じ。バス停は岐阜県側にある。
そもそもこの「標高2716m」バス停付近にはご来光バス専用の「県境ゲート」臨時バス停がありました。アルピコ交通からのプレスが見当たらなかったので詳細は不明ですが,日中に運行される乗鞍岳線でも利用できるようにし,その際にバス停名を変えたと思われます。バス停名の選定にあたっては減少傾向にある乗鞍岳線の乗降客数を考慮し,乗客数回復のカンフル剤になることを狙ってこのインパクトのあるバス停名にしたそうです。
バス停は国立公園内にあることから茶色を基調として,雷鳥の親子をかたどったデザインになっています。日付受けも用意され,記念ボード的な要素も大きくなっていてバス停が観光スポット化しています。なおバス停そのものは畳平方面のみの設置で「ご来光バス」のみ乗降可能。日中に運転される乗鞍高原~乗鞍山頂シャトルバスは降車専用となっています。
日本一高いところにあるバス停から見るご来光
「標高2716m」バス停から少し尾根を登り,標高2730m付近からご来光を拝みました。この日は少し雲が多かったものの,太陽が上ってきたときのその神々しい光景は圧倒されました。
雑感
いままで乗鞍高原から乗鞍山頂(畳平)に行くバスはあの道路を通っていたので「日本一高い場所を走る路線バス」であったことには変わりないのですが,物好きな身としては標高2716mという直球なバス停名,観光スポット化しているバス停ポールなど,興味深いものを見れて満足でした。
美しいご来光や畳平のお花畑*2の散策といった肝心の乗鞍岳での観光も楽しかったです。筆者は早起きとか苦手なのですが,乗鞍高原で前泊して早起きまでしてここまで来てよかったと今では思っています。
おまけ
標高2716mバス停付近から。山肌に這いつくばるように走る道路を,エンジンブレーキを効かせてゆっくり下っていくバスたち。本当にすごいところを走ってますね…。
参考
- 日本一高いバス停、その名も「標高2716m」誕生 - ねとらぼ
- 二條 宏昭(2015) 『アルピコ交通の観光誘客と公共交通維持に向けた取り組みについて』運輸と経済 75(1), pp.105-111