きっぷ片手に旅をする

公共交通利用が中心の旅行記がメイン。月3回程度のペースで定期更新中。

静岡市内から井川線井川駅へ路線バスでショートカットする

 大井川鐵道井川線は,静岡県を流れる大井川の中流にある千頭から,上流部の井川までを結ぶ地方鉄道路線です。林業電源開発のために敷設されてきた歴史があり,かなり山奥を走っています。

 そんな井川線ですが,接続する大井川鐵道本線の金谷から乗りに行くのは時間的にも運賃的*1にも効率が悪いです。また地図を見ていると静岡市内からの道路があり,バス路線も運行されているようです。そこで一般的にはなかなか知られていない,静岡市内から井川へのショートカットを試みました。

乗車日:2017年3月19日

しずてつジャストライン安倍線 新静岡→横沢

 バス路線があるといっても,途中で乗換えが必要なうえに静岡から井川まで乗り通すことができるのは1日2往復。井川からの観光や井川線乗車を考えると朝7時*2の静岡発に乗るほかありません。

 東京からの当日アクセスを考えると新横浜始発の「ひかり493号」に新横浜か小田原から乗るほかなく,寝坊リスクを考えて私は夜行バスのドリーム静岡・浜松号で早朝入りしました。

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 ひとけの少ない朝の新静岡バスターミナル。この5番のりばから発車するしずてつジャストライン「安倍線」バスに乗り込みます。

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 「安倍線」は静岡市内から安倍川沿いを北上し,梅ヶ島温泉などへ伸びる複数の路線からなる系統。今回は横沢ゆきに乗車。

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 早朝の静岡市内をバスは走行。標識には「井川 54km」の案内が。路線バスだけで向かうにはすこし長い距離です。

 バスは新東名高速新静岡ICなどを横目にどんどん北上。その新静岡ICを越えたあたりで「賤機(しずはた)」というバス停名や地名が目立ってきます。静岡の「シズ」はこの賤機という地名にゆかりがあるそうです*3

 この賤機のあたりで運転手が横沢からのバスに乗り継ぐ人がいるか乗客に聞いていました。後述する横沢からのバスは定員が少ないので予め無線で乗客数を知らせているようです。

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 バスはゆっくり安倍川沿いを北上。丸石のひろがる安倍川下流ののんびりとした光景が続きます。

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 「六番」バス停で安倍川上流に向かう有東木(うとうぎ)ゆきに連絡すると,安倍川支流に添って山間部へ。道はどんどん狭隘に,そして(写真には写っていませんが)茶畑が目立つようになってきました。

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 新静岡バスターミナルから約1時間半。ようやく終点の「横沢」バス停に到着。静岡市街から33km。バス停は静岡市山間部の小さな集落にあり,ドライバーの休憩用のトイレや案内板があるだけでコンビニどころか商店も近くには無さそうです。

井川地区自主運行バス 横沢→井川駅

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 この横沢で数十分待つと一台のワゴンがやってきました。このワゴンこそ乗り継ぐ井川ゆきのバス,「井川地区自主運行バス」です。

  もともとしずてつジャストライン静鉄バス)静岡井川線静岡市内から井川地区へバス路線を運行していたものの,平成20年5月31日に運行廃止。廃止となった横沢から井川地区の間は住民の交通サービス確保のために自治体が運行することになり,「井川地区自主運行バス」が誕生しました。いわゆる80条バスです。

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 バスは通常のワゴンを多少改装した程度で,運賃箱も両替機能などないまさに「箱」。定員は9名までで,バスの存在意義から「地域住民優先」「定員超過の場合は乗車拒否」が静岡市HPにも明記されています

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 バスはさらに狭隘路をどんどん進み,山を登っていきます。富士見峠(標高1184m)を越えると目の前には南アルプスの山々を一望。この時点で静岡市内から約50km,標高差1000m以上。バスだけでよくここまで来たものです。

 この富士見峠を越えると安倍川流域から大井川流域へ。そして下り坂で一気に井川の集落へ降りていきます。

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 静岡市内から3時間半,井川駅着。静岡からの長い長い旅でした。列車が来るまで時間があるので私はここでは降りず,一旦井川地区のほうまで行って「井川の夢の吊橋」の近くで降ろしてもらい,吊橋を渡ったり「井川線貨物線跡(遊歩道)」を散策したりしてから井川駅に戻りました。

乗車雑感

 静岡市内から井川へのバスでのアプローチ。乗車難易度の高さや乗車時間の長さなどある意味「上級者向け」のアクセス方法でした。しかしなぜこんな路線が未だに残っているのでしょうか。

 記事の途中で「富士見峠を越えると安倍川流域から大井川流域へ」と書いたとおり,井川と静岡市街は河川流域すら違います。バスはなぜわざわざ流域をまたいで運行されているのでしょう。人口の集積している沿岸部に行くなら大井川沿いを下っていけばいいはずです。

 実は近世以前より井川の人たちは静岡市駿河)とのつながりが深かったようです。井川のあたりの大井川上流は峡谷が非常に深くてとても人が行き交うことは難しく,逆に峠を越えて安倍川を下ったほうが沿岸部に行きやすかったのかもしれません。井川からは静岡方面への道路開通も早く,しかも1969(昭和44)年には井川は山向うの静岡市と合併しています*4

 かちの時代から静鉄バス静岡井川線,そして分断されて今に至る井川と静岡を結ぶ交通の歴史。そんなものを感じながら,大井川鐵道で往復するだけでは見られない,安倍川流域の景色を眺めて旅行するのもなかなか良いものでした。

 

*1:大井川鐵道本線と井川線は別建ての運賃形態となっているうえにキロ単位の運賃が高いため,井川~金谷間65kmで3,130円と高額。

*2:新静岡0733→横沢0913(2017年4月ダイヤ改正時点)

*3:「「シズオカ」の「シズ」は賤機山に由来すると言われています。」静岡県/県の概要-県の成り立ちより。注:賤機山は安倍川沿いから駿府城に伸びる舌状台地。

*4:参考:落書き帳アーカイブス:大井川上流、井川地区はなぜ静岡市なのか?