名古屋~高山岐阜を結ぶ特急「ひだ」で使用されているキハ85系が,後継の新型車両HC85系に置き換えられて今年の3月に定期運行を終了する*1。HC85系は2022年7月から定期運行を開始し,それから半年ほどで先輩を追い出すことになる。
キハ85系はディーゼル車ながら電車と遜色ない加速性能や最高速度,眺望をよくするために通路から一段高くなった客席,前面展望が確保されたパノラマグリーン車など,90年代前後に製造された車両らしい意欲的な設計で,私が好きな車両のひとつだ。キハ85系で運転される特急「ひだ」「南紀」は好んで何度も乗っている。
キハ85系は特急「南紀」で走るほうも含めて2023年中に定期運行は引退するからパノラマグリーン車を乗り納めしておきたい,と思いつつも,冬はスキー場でスノボしたいし,春になったらお名残り乗車が増えて落ち着かないだろうし*2……と乗車は半分諦めていた。
嫁に用事があり自分ひとりだけで暇なとある日曜日があり,前日の夜に何をしようかと思いあぐねて,何気なく特急「ひだ」の空席状況を見ていると,パノラマグリーン車の最前列が空いている……!即,座席をおさえ,特急「ひだ」を乗り鉄し温泉に立ち寄る旅行プランを作成,行動に移した。
特急ひだ7号 名古屋→高山
旅のはじまりは名古屋駅から。富山行き特急「ひだ」7号に高山まで乗車する。在来線ホームにある立ち食いできしめんをいただいたあと,入線してくる特急「ひだ」7号を撮影。
今回の特急「ひだ」7号はキハ85系7両編成で,最大の10両編成には及ばないが,それでもディーゼル車がこれだけ連なっていると迫力がある。特急「ひだ」7号が到着した名古屋駅は,キハ85系のアイドリングで騒音がひどく,排ガスはモクモク,においも気になるが,これぞ特急気動車の連なるターミナルの光景だろう。地球環境によろしくなさそうな風景だが,ハイブリッド車のHC85系に置き換えられたらこのような光景も見納めだ。
10号車のグリーン車に着座。私の座席は1番B席。パノラマグリーン車は3列シートなので*3,B席だとちょうど線路に向かって車両の中央寄りで線路を眺めることができる。
特急「ひだ」は名古屋駅を発車。まずは後ろ向きで東海道線を快走。ディーゼル音を唸らせて,あっという間に120kmまで加速してみせた。わずか20分足らずで岐阜に到着。
岐阜で進行方向を変えて,高山本線へ。ここからは前面展望を楽しむ。ふだんの車窓とは異なり,運転士目線なので見ている景色も特別感がある。
単線非電化の高山本線であっても最高速度は110km*4なので,高速でどんどん突き進んでいく。しかし単線ゆえに行き違い列車待ちは避けられず,坂祝ですれ違う上り特急「ひだ」が3分遅れで,しばらく停車となった。
美濃太田を出てから飛騨川に沿って走るが,パノラマグリーン車の通路側の先頭にいると線路のほうばかり見ているので,意外と川面は見えない。鉄橋で飛騨川を渡って,左岸へ行ったり右岸へ行ったり。このような景色が,高山の手前の久々野まで続く。
運転台の後ろの席というのは,運転士のハンドルさばきを眺められる特等席でもある。高山本線内は単線で,なおかつ曲線が多いので(おそらく)高度な練度を要求される。こまめにブレーキをかけたりマスコンを入れて加速したりという操作を眺めるだけでも楽しい。
渚で特急「ひだ」の後継車となるHC85系と交換。HC85系は2022年8月に営業運転を開始し今年3月にはすべてHC85系に置き換わる予定。キハ85系からHC85系を見るというのは過渡期の今だからこその車窓だろう。
中央分水嶺である宮峠をこえて坂道を下ると,高山盆地の開けた地形に入り,間もなく高山到着。名古屋からは2時間ほどの乗車だったが,あっという間に感じられるほど濃厚な時間だった。
7両編成の特急「ひだ」7号のうち,後ろ4両は高山で切り離す。3両編成の身軽な姿で富山に向かう特急「ひだ」7号を見送って,高山駅の改札を出た。
平湯温泉へ
高山まで来たものの,このときすでに日曜の13時。東京に帰ることを考えると滞在時間はとれないので,高山観光は諦め。ただ温泉だけは立ち寄りたかったので,濃飛バスで高山から1時間のところにある平湯温泉へ。
硫黄のかおりただよう濁り湯で,温まりながら雪見風呂。平湯温泉に浸かるのはこのときが初めてだったが,泉質がかなりよくまたリピートしたいと思う。
平湯温泉からは濃飛バスのバスタ新宿行き高速バスで東京へ戻った。飛騨の山間の温泉地から東京へ乗り換えなしで帰れるとは,道路網の発展の勝利であると感じざるを得ない……。