関西電力黒部ルート見学会は,黒部川第四発電所を始めとした黒部川流域の水力発電事業の広報のため,関西電力が主催している無料の見学会だ。
この見学会の見どころは有名な黒部川第四発電所(くろよん)などの発電施設を見学できるだけでなく,黒部ルート(欅平~黒部ダム間)のさまざまな産業用の乗り物を乗り継いで見学できるというところ。鉄道メインに乗り物は何でもござれな筆者にとっては垂涎の見学会だ。
見学会の人気は高く,応募倍率は最低でも5倍,人気のスケジュールでは10倍以上となる。筆者は何度か応募したことがあるが,当選したことは無かった。そんななか後輩が応募したところ,見事当選*2。2023年7月のとある日の黒部ルート見学会に参加してきたのでレポートしたい。
ちなみにこの見学会ルートは2024年から「黒部宇奈月キャニオンルート」として一般開放(旅行商品化)される。どうやら見学会と黒部宇奈月キャニオンルートで見学ルートや見学内容は同じようだが,一般開放に際して途中にある上部軌道の車両を更新するなどの準備は行っているらしい。今回は結果的に一般開放される前に先取りで黒部ルートを体験することができた。
記事の最後には画像ギャラリーもあるので是非ご覧いただきたい。
目次
黒部ダムから出発
関西電力黒部ルート見学会のコースは黒部峡谷鉄道の終点駅である欅平駅出発のコースと,立山黒部アルペンルートを構成する関電トンネル電気バスの終点にある黒部ダム駅出発のコースとで2パターンある。
今回は黒部ダム駅出発のコースに当選。黒部ダム駅集合が10時30分と早朝なので関東民であれば立山黒部アルペンルート起終点の信濃大町か富山で前泊するのが一般的だ。私は今回は室堂まで夜行バスに乗車して朝7時に室堂に到着し,室堂散策などをしてからゆっくり黒部ダムへ。この黒部ダムまでの道のりも趣味的には面白かったので,機会があれば記事にしたい。 この日の黒部ダムは夏らしい天気の中,満々と水をたたえて,ものすごい勢いで水が放水されていた。運良く放水に虹もかかり,まさに絶景だ。
【黒部トンネル見学者バス】 黒部ダム駅→作廊谷
関電トンネル電気バス黒部ダム駅(地図)に集合した私達は,さっそく駅の職員通路のようなところを通らされ,本人確認および手荷物検査と金属探知機によるチェックが行われる。見学会にしてはかなり厳重な処置だが,この先の見学コースはほとんどトンネル内であること,重要なインフラ施設であることを考えると当然のことだろう。織田裕二主演の映画『ホワイトアウト』みたいなことが現実になってはいけない*3。 ヘルメットをかぶり,さっそく見学スタート。まずは黒部ダム駅から黒部トンネル見学者バスに乗り作廊谷へ向かう。見学者バスの乗り場は,電気バス黒部ダム駅より奥の,電気バスが走るトンネル内を少し歩いたところにある。電気バスが黒部ダム駅に入線してきたところを見計らって,見学者バス乗り場に到着。すでにこのあたりから入坑時間を表示する看板があったり,作業員を輸送するための定期バスのダイヤが表示されていたりと,普段見られないインフラ施設の裏側がチラついてきて面白い。 バスは関西電力系列企業(関電アメニックス)が運営する北アルプス交通が運行しているらしい。バスは黒部ダムから離れて,黒部トンネル内を走りはじめる。
黒部トンネルは黒部ダムから北上し,黒部川右岸の山中を進んでいく10.3kmのトンネルだ。トンネルと並行して黒部ダムで取水した水を黒部川第四発電所に運ぶ導水管も走っている。もとは黒部ダムや黒部川第四発電所建設のための資材を運ぶだめに作られたトンネルで,『黒部の太陽』で有名な扇沢と黒部ダムを結ぶ関電トンネル(大町トンネル)は現在の関電トンネル電気バスが通るルートで有名だが,そのトンネルの続きで黒部ダムから黒部川第四発電所までを結ぶトンネルがこの黒部トンネルというわけだ。大町トンネルで破砕帯とのたたかいがあったように,こちらの黒部トンネルも険しい山中での工事だったためたいへんな難工事だったという。 トンネル内はいくつかカーブや若干の高低差はあるものの,狭く細いトンネル内を延々と進んでいると,時間感覚や距離感覚が失われる。黒部トンネル内は作業員を輸送するためだろうと思われる定期バスも走行しているようだが,バスの運転手はこのトンネルを走るのはつらくないのだろうか……。 黒部トンネルにはいくつか横坑*4があり*5,このうちのひとつタル沢横坑(地図)で見学タイム。バスから降りて少し歩き,横坑の出入口へ。ここから剱岳が見える絶景スポットなのだが,残念ながらこの日は剱に雲がかかってお目にかかることはできなかった。ただ三ノ窓氷河という剱岳東面に位置する氷河はかろうじて見ることができた。この三ノ窓氷河はもともと雪渓として認知されていたが,学術研究により流動していることがわかり,2012年に氷河として「発見」されたという経緯を持つ。
再度バスに乗車し,少し走って作廊谷(地図)に到着。ここでインクラインに乗り換える。作廊谷には住み込みで働いている方の合宿所があるらしい。インフラを守るためにこの秘境ともいえる山中で住み込みで働く方に頭が上がらない。
【黒四インクライン】 作廊谷→黒部川第四発電所
インクラインとはケーブルカーによく似た乗り物で,標高差のある二点間を山頂側にある動力を使って物資を輸送する装置だ。ケーブルカーは旅客輸送を主目的とする交通機関であり,物資を運ぶか人を運ぶかという点がインクラインとケーブルカーの違いとなる。 黒部トンネルにある黒四インクラインも当初は発電所の建設で使われたもので,作廊谷(インクライン上部駅)と黒部川第四発電所(インクライン下部駅)の高低差456mを傾斜34°で結んでいる。いまは荷台部分に乗車スペース(人員ケージ)があるが,この部分を取り払えば大型機械の輸送も可能だそうだ。インクラインの駅は天井が高く,さらにクレーンが設置されていることからもそれをうかがい知ることができる。2台の台車*6が中交換箇所ですれ違う交走式になっていて,レールと台車の車輪はケーブルカーと同じような構造になっている。インクラインの用途としては現在は作業員の移動がメインになっているようで,インクライン上部駅に到着したインクラインから,段ボール箱をいくつかかかえた作業員の方が下車してきた。 私たちもインクラインに乗車する。ケーブルカーと異なり乗車スペース部分には段差がなく,広々としている。9人がけシートが4列あり,定員は36名。そしていざ動き出すと……めちゃくちゃ遅い。インクラインの運転速度は毎分40mというスペックで,時速に換算すると2.4kmとなる。歩くより遅いが,重量のある荷物を運ぶための装置であるから速度は二の次なのだろう。 上部駅を発車してから10分後,中交換箇所で下からきたインクラインと交換。こちらのインクラインには欅平出発の見学会の参加者が乗車していて,お互いに手を振りあった。さらに10分経ってようやくインクライン下部駅(地図)に到着。
インクライン下部駅から少し歩くと,ついに黒部川第四発電所に到着。このまま発電所の内部へ進む。
後編へ続く
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