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黒部宇奈月キャニオンルート先取り!2023年度関西電力黒部ルート見学会レポート(後編)

 前回の記事の続き。後編は黒部川第四発電所から欅平までをお送りしたい。

ashizin.hatenablog.com

黒部川第四発電所見学

黒部川第四発電所
 インクラインを降りた私たちは,そのまま黒部川第四発電所(くろよん)へ入る。黒部川第四発電所は景観配慮などの理由で黒部の山中の地下にあり,施設に入っていくだけではここが発電所なのかという実感があまりしない。

 会議室に荷物を置いて,黒部の電源開発に関する映像を見た後,発電所のメインであるタービンがある発電所建屋へ。

発電所建屋

 地下とは思えないほど広大な空間に,手前から奥に向かって4台の発電機が並ぶ。タービンや歯車は床下部分にあり,クレーンがタービンを引き抜けるように天井もかなり高いつくりになっている。

水を受け止める歯車

 黒部ダムとくろよんの高低差は約545mある。黒部ダムで取水した水は導水管を伝ってその高低差を落ちていき,くろよんにある歯車にぶつかることで歯車が回転し発電する。歯車は人が20人くらいは乗れそうな巨大なもの。歯車が水を受け止めるカップのような部分は厚さが10cmほどある分厚いステンレスだが,砂や空気があたってベコベコに凹んでいて,高低差が生み出す位置エネルギーの大きさを思い知らされる。

発電所の運転室

 現在のくろよんは遠隔操作されていて,ここではない別の場所から管理されているそうだ。そのため無人の運転室だが,発電所のいろいろな状況を表示するメータやパネルがたくさんあり,ちょっとした男ゴコロをくすぐられてしまう。  

関西電力黒部専用鉄道(上部軌道)】黒四P/S前→欅平上部

インクラインと接続する黒四P/S駅。写真左手にくろよん入口もある。

 食事休憩ののち,黒四P/S前駅へ移動して関西電力黒部専用鉄道(上部軌道)に乗車する。黒四P/S前駅はくろよんの入り口とインクライン下部駅に接続している駅で,P/S は Power Station発電所)の省略形だろう。正式名称かどうかはわからないが,駅名標などをもとにここでは「黒四P/S前駅」と表記する。

 上部軌道は1941年に仙人ダムと黒部第三発電所の建設に伴い資材運搬のため欅平上部~仙人谷間で建設された専用鉄道で,くろよん建設に伴い黒四P/S前まで延伸されている。黒部の深い山中を長大トンネルで抜けていくのだが,この鉄道が太平洋戦争中に建設されていたというのだから驚きだ。

 当時の関西圏の電力需給が逼迫されたことで国策で建設が推し進められたが,吉村昭の小説で知られる高熱隧道でのダイナマイトの自然発火による事故や,ホウ雪崩(大規模な表層雪崩)が工事用の宿舎を直撃し対岸の尾根を超えて吹き飛ばされる大災害などを乗り越え,多くの人夫の犠牲の上で建設された。

 

上部軌道の客車

 上部軌道はすべてが客車列車。高熱隧道に対応するため機関車は蓄電池式になっているほか,客車は耐熱仕様で小さく,大人は腰をかがまないと乗車できず,車内も10人も乗れないほどだ。ちなみに上部軌道は関西電力の所有だが,運行や客車の整備は黒部峡谷鉄道が行っているそうだ。

 不定期列車を含めて6往復走る上部軌道列車のうち,今回乗車するのは4往復目の8列車。

上部軌道上で歌唱する中島みゆき
NHK『うたコン』(2020年6月30日放送分)より引用
 列車は黒四P/S前を発車すると,少しトンネルが広くなった場所を通過する。ここでは2002年大晦日NHK 紅白歌合戦中島みゆきが『地上の星』を歌った場所で,トンネル内にはその目印もある。くろよんでは今でも中島みゆきが黒部を訪れたときのことが語り継がれていて,この場では省略するが今回の見学会でも色々なことを教えていただけた。

仙人谷駅から臨む仙人谷ダム

  さらに数分走ったところで仙人谷駅地図)に到着。ここは仙人ダムがある黒部川の谷にかかる橋の上にある駅。客車から下車して,仙人ダムを間近で見ることができる。

仙人谷駅から黒四P/S前駅方面を望む

 仙人谷駅は黒部川の谷にかかる橋の上にあるため,冬季は深い雪に埋もれることになる。そのため橋の窓は鉄板で塞ぐことができるようになっている。

 ちなみに,仙人谷駅の近くには仙人谷ダムのほかにも関電人見平宿舎があり,この駅で乗降する人はそれなりにいるようだ。

 仙人谷駅での数分の停車ののち,列車は再びトンネルに入り欅平方面に向かう。トンネルに入ってすぐに客車内にモワっとした空気が入り,温泉地でおなじみの硫黄の匂いがしてくる。この区間高熱隧道だ。導水管を線路の下に通してトンネル内を冷やしているが,それでも気温は40℃を超えるという。高熱隧道から出る温泉は近くの阿曽原へと流され,阿曽原温泉となっている。

 列車は阿曽原駅,折尾谷駅,志合谷駅を通過する。トンネル内でどのような設備なのかははっきり見えなかったが,交換設備があるのでポイントを乗り越えたときの音でなんとなく場所はわかる。阿曽原駅には阿曽原温泉小屋へ通じる通路があるそうだ。

 

欅平上部駅にて。蓄電池機関車が入換作業中。

 やがて列車は欅平上部駅に到着。

【竪坑エレベーター】欅平上部→欅平下部

 仙人谷と欅平には200m以上の高低差がある。戦前の鉄道技術ではこの高低差を解決できなかったため,欅平に長大な竪坑エレベータを建設し,鉄道の苦手とする高低差(勾配)をエレベータで解消するという力技で解決させている。竪坑エレベータ内部は黒部峡谷鉄道から来た貨車がそのまま直通できるように,レールが敷かれている。

竪坑エレベータ

 このエレベータに乗って,欅平下部駅へ。

関西電力黒部専用鉄道(下部線)】欅平下部→欅平

 

欅平下部駅にて

 欅平下部駅から,さらに工事用列車に乗車して欅平駅へ。この区間では黒部峡谷鉄道と同じ形式の機関車と客車が使われている。乗車するのは黒部峡谷鉄道に直通する34列車だ。

スイッチバックして欅平駅

 この列車に乗ると,最初は機関車の牽引で前進したが,すぐにスイッチバックして推進運転で欅平駅へ。わずか5分程度の乗車時間で欅平駅に到着した。

欅平駅で入換中の工事列車

欅平駅

 欅平は一般の観光客が立ち入れる最奥部で,ここで見学会としては解散。黒部ダムから欅平まで通り抜けてきた開放感や達成感にあふれつつ,さらに黒部峡谷鉄道トロッコ列車に乗って宇奈月へと向かった。

旅行後記

 黒部ルートにある長大トンネルやダム,発電所などの構造物は,地図などでも見ることはできるものの,実際に行ってみるととても巨大で大きなスケールであることが実感できた。またこの巨大な構造物が人々が流した血や汗の上にできていて,いまでも電力供給の維持のために汗を流す人がいるということも自分の目で見ることができて,非常に有意義な見学会だった。

 乗り物好きの観点からもバス,インクライン,専用鉄道列車など産業用の様々な乗り物に乗れたのは貴重な経験になったし,黒部の雄大な自然を満喫することもできた。一回の見学会で得られるものが多すぎて,一回だけでは受け止められないほど。また欅平発のルートなどに参加してみたい。

 前回の記事でも触れたように,今回の見学会は2024年から旅行商品化され有償になるものの,黒部宇奈月キャニオンルートとして一般の見学が可能になる。事前予約制である程度人気になるかもしれないが,これまでの見学会よりも多くのツアーが開催されるだろう。多くの人にこの黒部の歴史や自然,黒部ルートのスケールの大きさを体感してほしい。



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