　JR東海は2021年11月から「推し旅アップデート」というキャンペーンを展開していて，コロナ禍で落ち込んだ需要創出に努めている。アニメやアイドルなど，個人の「推し」にフォーカスしたキャンペーンで，沼津が舞台となったアニメ「ラブライブ！サンシャイン!!」（第1期放送：2016年）とのコラボも行われている。

　2023年6月からはさらに強力にキャンペーンを展開し，「ラブライブ！サンシャイン!!」聖地の沼津駅を中心にさまざまなイベントが企画され，6月19日には「ラブライブ！サンシャイン!!」ゆかりの地を巡るさわやかウォーキングのほか，臨時急行「ラブライブ！サンシャイン!!」が浜松→沼津間で運転されることが発表された。JR東海のアニメコラボ列車は2020年の臨時急行「ゆるキャン△梨っ子」以来だ。

　お硬いイメージのあるJR東海において「ラブライブ」列車が走るのは驚きだった。アニメ「ラブライブ！サンシャイン!!」をちゃんと見たことは無かったのだが，JR東海が何をしかけるのか……そんな期待感から，ひとまず10時打ちで指定席券を確保した。

急行「ラブライブ！サンシャイン!!」の急行券・指定席券。
券面の列車名は「サンシャイン!!号」
静岡まで新幹線を利用することで乗継割引を適用させた

　このとき私は駅で10時打ちしてもらったので難なく発券することができたが，ネット予約の設定不備から e5489 等で予約しようとすると「ラブライブ！サンシャイン!!」号が候補に現れないというトラブルが発生していた。その後JR東海は謝罪に追い込まれ，「ラブライブ！サンシャイン!!」2号が約40分後を走るダイヤで追加設定されることになった。２列車の運行ダイヤは下記の通り。

列車名	浜松発	掛川発	静岡発	沼津着	車両編成
ラブライブ！サンシャイン!!	9:18	9:43	10:28	11:15	373系6両
ラブライブ！サンシャイン!!２号	10:02	10:25	11:12	11:54	373系3両

　列車の企画自体が異例なのに，予約システムの不備からJR東海が謝罪し列車を追加設定するという異例ずくめの列車となった。この列車に乗車してきたので「ゆるキャン△梨っ子」号（以下，「ゆるキャン△」号）乗車時との比較もしつつレポートしたい。　
　

ラブライブ！サンシャイン!!号に乗車
「ラブライブ！サンシャイン!!」2号をお出迎え
あとがき

ラブライブ！サンシャイン!!号に乗車

静岡にて

　乗車する前日の夜，サブスクを契約してアニメ「ラブライブ！サンシャイン!!」を視聴。寝る時間が朝４時になってしまったが，アニメの予習はバッチリだ（？）。わからないことがあれば同行してくれた嫁がラブライブ！サンシャイン!!好きなので，わからないことがあれば嫁に聞くことでなんとかなるだろうというニワカスタイルで行く。

　新幹線で静岡駅に向かい，「ラブライブ！サンシャイン!!」号（以下，サンシャイン!!号）を待つ。この頃には列車は浜松を出ていて，浜松からの報告が Twitter を賑わしていた。やがて発車標にサンシャイン!!号を表す「臨時急行」の表示が出る。「ゆるキャン△」号では列車名がしっかりと表示されていたが，今回は「臨時急行」のみと味気無い……と思いきや，2段目のスクロールでしっかりと列車名が表示された。この違いはよくわからないが，列車名が長いからだろうか？

　停車時間が3分あったので，静岡駅に進入するところを撮り鉄。専用ヘッドマークを掲出しているところ以外は，一見すると通常の373系とそう変わらない。

Aqours と列車旅

　乗車口に立っているJR東海の係員に指定席券を見せて，いざ乗車。デッキには「ラブライブ！サンシャイン!!」関連のポスターが貼られ，窓と窓枠には Aqours *1のメンバーたちがこれでもかと装飾されている。さらにこの列車専用に制作されたヘッドカバーも設置。「ゆるキャン△」号のときと同様に Aqours の声優による案内放送が行われていて，まるで Aqours のメンバーと列車で沼津に行くような体験ができた。

気合が入った記念撮影ブース

　記念乗車証と乗車記念品の配布が終わったあと，車内見学。おそらくこの列車の一番のウリは，373系のセミコンパートメント席を利用した記念撮影ブースだろう。窓いっぱいに埋めつされるほどの Aqours メンバーのラッピングに，記念撮影用のボード，テーブルには乗車記念品のシールに使われたイラストが。極めつけには網棚に「寝そべり」が鎮座している。「ゆるキャン△」号はアニメやドラマに関連するグッズの販売や展示等だったが，「サンシャイン!!」号では体験型のスペースとして利用され，装飾も派手になった。

　セミコンパートメント席は1編成に4席×6ブース設けられている。車端の2ブースずつがそれぞれ Aqours メンバーの学年ごとに分けられ，1編成単位で装飾されていた。

2/5号車神戸方：3年生
2/5号車東京方：2年生
3/6号車神戸方：1年生

安全確保は第一に

　そんな楽しさあふれるサンシャイン!!号だが，期待以上にふつうの観光列車と違う点があった。列車に乗るときにはJR東海係員による指定席券の確認があり，無札の乗客の強行乗車をガード。セミコンパートメント席を含む車内装飾の見学も，時間帯別に見学者を制限。編成ごとに内容が同じなので，別の編成に移動することも NG であった。

　さらにラブライブの雰囲気にはそぐわない人も乗車していた。静岡県警察の警官である。彼らはときおり車内を巡回し警戒にあたっていた。よく見たら，駅のホームにも駅員が立哨していたり，警官が警戒に当たったりしている。

　ここまで警戒の強い列車に乗るのは初めて。昨今の列車内での傷害事件などが念頭にあるのかもしれないが，警備と統制を強化し不測の事態に備え安全確保を図り，トラブルなく列車を運行させようという姿勢は，まさにJR東海の堅実な姿勢そのものであると思う。
（見学を時間帯別に制限している点は，ゆるキャン△号でグッズ購入や見学客で通路が若干混乱していた点の反省もあるかもしれない）

　多数のラブライバーと，これまた多数の警官に出迎えられ，「サンシャイン!!」号は沼津に到着。1時間足らずのわずかな乗車時間であったが，濃厚なひとときを過ごすことができた。

「ラブライブ！サンシャイン!!」2号をお出迎え

　「サンシャイン!!」号が沼津区に引き上げたあと，後を追ってきた「サンシャイン!!」２号が沼津にやってくるので，私もホームの端っこに行って撮り鉄。

　追加設定された２号は3両編成。追加設定分も6両編成にならなかったのは，車両運用の都合だろうか。逆に私が乗車した号数がないほうが9両編成にならなかったのは，車両運用の都合より警備上の問題がありそうだ。

　こちらの2号の編成は沼津区ではなく静岡区に引き上げていった。

あとがき

　「サンシャイン!!」号は「ゆるキャン△」号の運行をふまえてさらにパワーアップした列車だった。おそらく描き下ろしと思われるイラストや声優による案内放送はアニメ制作側を大きく巻き込まないとできない企画で，JR東海の企画力の強さも感じられた。一方で安全第一の堅実な姿勢はいかにもJR東海らしいところで，「JR東海らしからぬところ」と「いかにもJR東海っぽいところ」の二面性が垣間見れて，これまた興味深い列車だった。