きっぷ片手に旅をする

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紀伊半島縦断 長距離路線バスの旅 ~ Day2 八木新宮特急バス

  前回の記事の続きです。

ashizin.hatenablog.com

 2日目は,湯の峰温泉から奈良交通八木新宮線(八木新宮特急バス)に乗車して,大阪府橿原市大和八木駅に向かいます。

 八木新宮線は新宮駅和歌山県新宮市)~大和八木駅奈良県橿原市)間166.9kmを結ぶ,一般道路を走行する路線バスでは日本屈指の長距離路線バス。前回,紀伊熊野を訪問した際に八木新宮線本宮大社前→新宮で乗車したことがあり,日本最長級の路線バスということでせっかくなら乗り通してみたいと思っていた路線です。

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 この日は大阪でライブ参加があるため,早朝から出発して八木新宮特急バスで途中下車をしながらバス旅を愉しみます。

奈良交通 八木新宮線 [特急302] 湯の峰温泉本宮大社

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早朝の湯の峰温泉に入る八木新宮特急バス

 この日は湯の峰温泉で宿泊。温泉で茹でた温泉卵と源泉で作ったカップラーメン*1で朝食。新宮を05:53に発車した八木新宮特急バスの第1便を待ちます。

 7時すぎ,ほとんど遅れることなくバスは到着。乗車して10分足らずで最初の立ち寄り地,本宮大社前で下車。せっかく本宮まで来たので,熊野本宮大社などを観光します。

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熊野本宮大社(拝殿)

 本宮大社前で下車してすぐのところにある熊野本宮大社へ。全国3000社ある熊野神社総本宮で,1000年以上にわたって人びとの信仰を集めた神社です。鳥居をくぐって158段の階段を登ると古めかしい拝殿が。この奥に社殿*2があり,まずはこちらにお参りしました。

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熊野本宮大社旧社地 大斎原(おおゆのはら)

 1889(明治22)年まで熊野本宮大社があった大斎原も訪問。こんもりとした森の部分が大斎原。熊野川・音無川の合流する三角地帯にあり,熊野川の水害により大きな被害を受けて現在の場所に移転した経緯があります。現在はこんもりとした森の部分が旧社地で,大きな鳥居をくぐってその中に入っていくと,ただものではない神聖な雰囲気に身を包まれます。

奈良交通 八木新宮線 [特急302] 本宮大社前→大和八木駅

 本宮大社前バス停にある世界遺産熊野本宮館などを見学しつつ,2便目の八木新宮特急バスを待ちます。

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八木新宮線の主要停留所案内

 本宮大社前からは大和八木まで同じ便を乗り通していきます。停留所案内には五条駅230分3,200円,大和八木駅317分3,950円との表記。日本最長級のバスは所要時間も運賃も一般的な路線バスとは桁違いです。

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本宮大社前に入る八木新宮特急バス

 数分遅れて09:07発大和八木ゆき八木新宮特急バスが本宮大社前に滑り込んできました。川湯あたりから乗車してきたと見られる観光客グループが降車してきて,乗車しているのは数人の旅客のみ。ここから乗車したのは私たちと,帰省帰りのため本宮から橿原に戻るというお兄さんのみ。ちょっとさみしい感じだが,ここから乗車6時間を超える路線バスの旅がスタート。

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十津川営業所で1回目の休憩

 バスは一般的な外見の路線バスですが,長距離乗車に対応して背もたれの高いシートにカーテンつき。ドリンクホルダーもあります。とはいえ山間部を6時間近く乗車するため,快適かといえばまた別の話。

 本宮大社前を出て数十分で和歌山-奈良県境を越えて奈良県十津川村へ。このあたりから狭隘路を進むようになり,バス1台ぶんの横幅しかない道路が当たり前のように出てきますが,運転手は慣れたハンドルさばきでずんずんと進んでいきます。

 09:50頃,十津川村南部にある十津川営業所(十津川温泉バス停)に到着。ここで10分の休憩。八木新宮線の運転手は新宮から八木まで通し乗務になるため,道中3回の休憩時間が設けられています。

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奈良交通十津川営業所の足湯

 ここでトイレ休憩となるわけですが,ここには十津川温泉の源泉かけ流し足湯があります。ぬるめのNa炭酸水素塩泉で,ちょうどいいぬくさで気持ち良い足湯です。休憩時間が10分のみのため,足湯を満喫,とするにはちょっと短いですが,長い長い路線バスの旅では数少ない癒やしスポットです。

 紀伊半島南部はプレートの活動により温泉がたくさん湧いています。川湯や湯の峰,十津川温泉がそれらの例です。八木新宮特急バスはそれらの温泉を結ぶ役割も持っていて,途中下車しながら温泉めぐりするのも面白そうです。

 

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上野地で2回目の休憩

 十津川村は日本最大の面積をもつ村で,その面積は琵琶湖よりも広く,奈良県のうちの1/5を占めています。八木新宮特急バスはその十津川村を縦断。八木新宮特急バスは通常の路線バスと同様にこまめにバス停が配置され,バイパス道路を避けて十津川村内に点在する集落内を結んでいます。この日も十津川村内で短距離区間利用で乗車してきた旅客が複数。その路線距離ばかり注目されてしまう八木新宮特急バスですが,十津川村内のローカル輸送の一翼を担っている興味深いシーンも見ることができました。

 11:05頃,上野地バス停に到着。ここでは20分休憩。休憩中に近くにある谷瀬の吊り橋の見学ができます。谷瀬の吊り橋は熊野川上にかかる吊橋で,その長さ300m。日本最長級の歩道吊り橋です*3。この吊橋を渡ってみたかったのですが,バス到着と同時に観光バスも到着し,大勢の観光客が吊橋へ……。皆さんへっぴり腰で渡っていくので吊橋上で渋滞が発生。おまけにこの吊橋は20人以上渡ってはいけない橋。観光客がはけるのを待っていると路線バスに乗り遅れる可能性があるため,吊橋は渡りきらず途中まで進んで引き返しました。。

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谷瀬の吊り橋

 上野地を発車してしばらく集落内の狭い道を走行。時刻表上ではまもなく八木からの第1便がやってくる時間。こんなところでバスが来たらまずいぞ……と不安に思っていたら,二車線道路に出たところでちょうどすれ違い。すれ違いまで考慮してバスダイヤを組んでいるとしたら,ダイヤ編成の担当の方には感服です。

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八木からの第1便とすれ違い

 このあたりでようやく十津川村を抜けて五條市大塔村)へ。大塔村の中心部を越えると,熊野川はどんどん細くなり,上流域特有の川原に大きい岩がごろつく険しい景色が車窓にうつります。新宮から熊野川とともに進んできたバスの旅ですが,まもなく熊野川とはお別れ。新宮川水系紀の川水系分水嶺である天辻峠を越えるため坂道をぐんぐんと登っていきます。

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大塔村まで来ると熊野川は上流域に

 天辻峠で長いトンネルを抜けると五條市街へ降りていき,あれよあれよという間に住宅地のひろがる都市の景観になりました。紀の川を越えて五条駅に到着。新宮以来,ひさしぶりの鉄道駅です。さらにバスは進んで五條バスセンターに13:00頃到着。ここで15分休憩。ここでは八木からの2便目も休憩していました。

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五條バスセンターで3回目の休憩。八木からの2便も同じく休憩中。

 五條バスセンターからはなだらかな景色の中を八木へと向かいます。このあたりからは宅地化が進展していて,都市郊外部の路線バスに乗っているのと大して変わりない感覚になります。路線バスらしく,短距離利用の旅客もこのあたりからは目立ってきました。

 近鉄線とJRが通る御所をすぎると,交通渋滞も激しくなりバスの進みが悪くなってきます。この時点で本宮大社前から乗車して4時間が経過。途中なんどか寝落ちしつつ乗ってきましたが,車窓も普通の住宅地が広がるうえに進みも悪いのでそろそろ退屈に……。

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終点まであと2駅(畝傍駅付近)

 高田市駅を過ぎて進路を東へ。桜井線の畝傍駅のあたりを過ぎたら,まもなく終点の大和八木駅

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大和八木駅に到着

 14:30頃,バスは数分遅れて大和八木駅に到着。本宮大社前を出て5時間半,停留所数142,距離123kmの長旅でした。奈良交通では全国交通系 IC カードが利用できるため,乗車時 PASMO をかざして乗車しましたが,降車時に精算機にタッチするとエラーの表示。あまりに整理券番号が多いため, IC カードで長距離乗車するとエラーとなってしまうそうです。本宮大社前から乗車した旨を運転手に告げ,運転手が手打ちで金額を入力して決済。

 5時間以上にわたって共にしたバスをしばらく眺めつつ,近鉄線に乗って大阪のライブ会場に向かいました。

INFOMATION

*1:温泉の独特の風味がして思いのほか美味。飲泉になるのでスープの飲み過ぎには注意。

*2:社殿内は写真撮影禁止

*3:最長の歩道吊り橋は三島スカイウォーク