前回の記事で乗車した「DLすいぐん」のツアーは,帰路にE655系「なごみ(和)」に乗車できることを売り文句にしていた。「DLすいぐん」を常陸大子駅で下車して,袋田の滝など水郡線沿線の観光地をまわって水戸駅に到着。水戸駅からはE655系「なごみ(和)」で上野に戻る行程だ。
E655系とは
乗車記に入る前にE655系の紹介をしておく。E655系はJR東日本が保有する特急形車両で,皇族や VIP とそれに同行するスタッフの利用を前提として製作された。1編成5両と,天皇皇后両陛下の行啓などの際に乗車される「特別車両」1両のみが存在する。定期運用は無く,もっぱら皇族の「お召し列車」「御乗用列車」か,一般向けの団体臨時列車での運転が主体だ。時刻表に載り,窓口できっぷを買えば乗れるような列車に充当されたことは一度もない。
E655系自体は撮り鉄をよくしていた頃に「お召し列車」「御乗用列車」や車両メーカへの入出場を撮影したことがあり,ある意味見慣れた存在だったが,自分自身が乗車したことはなかった。たまにツアーで乗車した知り合いの話を聞くと「中はどうなってるの?」と食い気味で聞いてしまうくらいには興味はあった。
E655系「なごみ(和)」 水戸→上野
夕暮れの水戸駅に入ってきたE655系「なごみ(和)」。光の当たり具合で紫色にも漆色にも見える高貴で独特なカラーリングが強烈な印象を放つ。いざ車内に入ると,新車に乗ると鼻につくあの匂いがただよっている。機器が設置されている関係でやや閉塞感のあるデッキを抜けて客室に入る。
E655系は全車グリーン車で,さらに(ふつうの)グリーン席,VIP 席,VIP 個室などさらに設備は細かくわかれている。今回のわたしの席はグリーン席。1+2列シートに布張りの電動リクライニングシート。最近の他列車でいえば「サフィール踊り子」のリクライニングシートに近い。この列車内で一番ベーシックなグリーン席だが,これだけでも十分快適な設備だ。ちなみに VIP 席はふつうのグリーン席が革張りになった座席になっている。
座席ポケットには車内販売の案内があり,E655系車内の無線 LAN に接続することで車内販売をオーダーすることができるのだが,この日は車内販売の営業は無かった。ちなみに無線 LAN に接続することで運転台に設置されたカメラによる前面展望を見ることができるが,フレームレートが激落ちしてカクつくことがあるのでライブ感はあまりない。
グリーン席と対をなす存在が3号車にある VIP 個室。個室がある空間だけ絨毯がフワフワ。屋根の構造,照明の配置なども異なり,否応なしにこの空間が特別なものであることがわかる。VIP 個室は一般利用されることはなく,今回も誰も使っていないはずだが,個室の扉の鍵はかたく閉ざされ,中をうかがい知ることはできない。
そのほか車両の中をいろいろまわってみると,E655系は2007年製(車齢15年)にしてはかなり綺麗な内装で,壁や手すりに傷ひとつないのが印象的だった。VIP 利用前提であるし,ツアーであってもそれなりの値段のするプランでないと利用できないから,傷をつけるような使い方をする人も乗車しない。そもそも運行頻度が少なく人を乗せる機会が少ないから,というところはあるかもしれない。
水戸を出た列車は常磐線を南下。いちおう「特急」として走るのでそれなりに速いのかと思ったが,途中の何箇所かの駅で運転停車し定期列車を何本か退避していた。さらに藤代ではいったん停車し,交流電化区間から直流電化区間へ。E655系は運転士が手動で交直切換をするので,いったん車内の照明が落とされる。ハイグレード車両なのにこういうこともあるのか……と意外な感じがした。
柏で客扱いをし,そのまま上野へ。地平ホームに停車すると撮り鉄が待ち構えていた。
乗車雑感
E655系はたしかに特別感のある車両であったが,車内サービスや接客は一切なかったので,ハード面では高級感はあるがソフト面も込みで考えるとハイグレードとはいえず,一度乗って席に座ってしまえば特急のグリーン席に乗っているのと特に変わりはなかった。その点はすこし期待はずれではあったものの,走ること自体が少ない列車に乗れたということ自体に価値があったとは思う。
なお,E655系乗車の際は「きっぷ」は無く,首掛けの参加証のようなものがくばられた。マルス収容が無い列車だからこのようになるのだろうか?一応持ち帰りは OK だったが,きっぷがないのはちょっと残念だった。