きっぷ片手に旅をする

公共交通利用が中心の旅行記がメイン。月3回程度のペースで定期更新中。

ラストシーズン「SL銀河」乗車記

 前回の記事からの続きです。

ashizin.hatenablog.com

 「SL銀河」は遠野で SL の点検・整備のために1時間以上停車するので,沿線で「SL銀河」に乗ってから駅に向かっても余裕で乗車することができる。

「SL銀河」遠野駅にて

さらばキハ141系旅客車

SL銀河の旅客車(キハ141系) 釜石にて

 「SL銀河」は2023年6月で運行終了となるが,その主な運行終了理由が「SL銀河」の客車部分であるキハ141系700代旅客車の老朽化であった。

 このキハ141系700代旅客車はJR北海道札沼線電化によって余剰になった気動車を改造して転用したものであるが,さらに元を辿れば国鉄50系客車である。客車→気動車→旅客車と2度も転用された数奇な車両であるが,1978年(一部は1981年)製造という古い車両のため,このたびの運行終了となったようだ。

「SL銀河」のキハ141系旅客車の内装

 45年選手の旅客車ではあるものの,「SL銀河」運行開始時にきれいにリニューアルされている。『銀河鉄道の夜』をイメージした外装はきらきらと星や星座が光る。内装も赤色の座席に赤色のじゅうたん,カーテン,ステンドグラス風の飾り証明,ちょっとした個室感のあるセパレートがあるなど,全体的に高級感のある雰囲気で,ただ列車に乗っているだけでは古い車両であることは気づかない。

 天井部分の蛍光灯は写真で見ると少し目立つが,運行中に乗っているとまったく気にならなかったのが不思議だ(車窓を眺めていることが多いからかもしれない)。

 

SL 銀河に乗車

 たくさんの方々に見送られて「SL 銀河」は遠野駅を発車。その後のどかな遠野盆地をゆっくり走ったあと,足ヶ瀬駅で運転停車。ここで SL をさらに点検して,長いトンネルでの峠越えにいどむ。駅を出てカーブを曲がったらすぐにトンネルに突入。峠を越えたあとは長い下り坂のようで,SL のわりに結構な速度が出ていた。

キハ141系700代の運転台

 キハ141系700代旅客車の先頭には運転台があり,運転士も乗務している。峠越えの勾配区間において SL だけで動力が足りない場合,キハ141系の動力を加えて協調運転を行う足ヶ瀬のあたりの峠越え区間でキハ141系の協調運転が見られるのでは?と思って運転台後ろで観察していたが,このときは協調運転は行われていなかった。

上有住にて一コマ

 トンネルを抜けたあとの上有住駅で停車。機関士らは SL を再度点検。乗客は束の間の撮影タイムとなる。

 上有住を出ると再び長いトンネルに入り,釜石線で有名なΩカーブにさしかかる。標高差の大きい区間を U 字状に大回りすることで,列車が登れるほと勾配をゆるやかにしているのだ。

これから走る釜石線の線路が見える

 Ωカーブにさしかかると車掌からアナウンスがあり,進行方向右側の車窓に注目が集まる。自分は左側の座席に座っていたので,後ろのほうからこっそり覗かせてもらう。Ωカーブ上にある陸中大橋駅は望めなかったが,これから走る線路が下のほうにあるというちょっと不思議な光景を見ることができた。

 

列車で眺めるプラネタリウム

「SL銀河」客車内のプラネタリウム

 陸中大橋駅を発車後,1号車にあるプラネタリウムへ。「SL銀河」が遠野を発車したあとプラネタリウムの整理券を取りに行くと,最後の上映枠をゲットしていたのだった。満席の列車だから,遠野からではすでに整理券は終了しているかなと諦め半分だったので意外だった。

 プラネタリウムは科学館にあるような星や星座を紹介するようなものではなく,『銀河鉄道の夜』を題材にしたオリジナル番組が投影される。10分ほどの上映時間だったが,列車の揺れや音を感じながらの鑑賞なので『銀河鉄道の夜』の世界観に没入でき,乗車から1ヶ月ほどたった今でも印象に残っている。

 ちなみに等級の低い(暗い)星も投影できることで定評のある MEGASTARプラネタリウムで,列車にプラネタリウムが設置されるのは世界で初めてらしい。天体がコンセプトの列車じたいが,世界では珍しい存在だと思うが……。

 

 「SL銀河」はやがて終点釜石駅に到着。銀河鉄道の旅はここで終了となった。

 

あとがき

SL銀河の指定席券(再掲)

 「SL銀河」に始発の花巻から乗れずに遠野から乗るのはある意味「妥協」であったが,遠野から乗車しても楽しめる列車で,むしろ遠野市内の観光も長めにとることができたので結果的にこの行程で満足している。

 ラストシーズンということで乗客にはオタクが多いのかと思いきや,むしろ地元の方とおぼしきグループ客が多かったのが記憶に残っている。岩手県や東北の復興の象徴として釜石線を走り続けてきた「SL銀河」は,地元の方々からも愛されているのだろう。

 釜石駅にはラストシーズンのSL銀河試運転のヘッドマークなどが展示されていた。また,「物語は、つづく」という意味深なメッセージが書かれたノボリが立っていて,SL 銀河の後継について何らかを示唆している。

 老朽化したキハ141系700代旅客車はともかく,蒸気機関車の C58-239 は動態復活してからまだ10年弱。機関車の復活や SL 機関庫の整備のためにJR東日本が投資した金額は相当なはず。何らかの方法で客車を調達して釜石線などで新しい SL 列車を走ると予測しているが果たして……。

 「SL銀河」は2023年6月11日に最終運行となる。

 

物語は、つづく?