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JR東日本みどりの窓口の大量削減、大混雑、そして復活へ

 いま,JR東日本の駅のみどりの窓口にきっぷを買いに行った人は驚き,辟易する。窓口の外まで長蛇の列が続いているからだ。一枚のきっぷを買うのに1時間かかることも珍しいことではない。この事態に対して,JR東日本みどりの窓口削減の方針を転換を迫られている。

2022年4月下旬 なんでもない日の武蔵小杉駅みどりの窓口

みどりの窓口の大量削減の背景に合理化と費用削減

 みどりの窓口の削減は2010年代から行われていたが,2020年以降加速した。2021年5月にJR東日本が発表したプレスリリース「チケットレス化・モバイル化を推進し,「シームレスでストレスフリーな移動」の実現に向けた乗車スタイルの変革を加速します*1」では,440駅あるみどりの窓口設置駅を140駅までに減らすとされた。山手線の駅だけで見ても,2020年10月時点で山手線30駅中21駅に残っていたみどりの窓口は,2024年4月時点で10駅に減少した。

 首都圏の駅などでは閉鎖されたみどりの窓口の跡地は売店や飲食店となり,運輸事業ではなく駅ナカビジネスの場所となる。筆者がよく使っていた駅でみどりの窓口が廃止されたあとの窓口跡地が沖縄物産展になっていたのを見たときは,やるせない気持ちになった。

五反田駅みどりの窓口廃止前後(2021年2月・4月)
現在は立ち食いそば屋に転換

 みどりの窓口の削減にはJR東日本の都合が大きい。鉄道会社においても運輸部門は斜陽であり,大都市圏の収益で地方路線の赤字を補填できなくなりつつあるという現実が,コロナ禍で浮き彫りになった。駅員や車掌など現場で働く人を減らすことは,人手不足への対応に加えて,人件費というウエイトの大きい固定費の削減につながる

 2010年代から顕著な動きであるが,JR東日本デジタル化や下請けなどにより,運転・営業ともに人件費を削減してきたワンマン運転を増やしたり,特急列車を全車指定席にして車掌を1人にしたりするなどして,利用者目線でも目で見える範囲でJR職員は減っている。みどりの窓口の削減も,出札係員の削減という人件費削減の一環であろう。駅の業務が減れば,機械のメンテナンスを削減できるなど副次的な効果もある。とにかくJR東日本の目的は合理化と費用削減に尽きる

 JR東日本は2021年6月には「えきねっと」をリニューアルし,MaaS を意識した乗換案内からの予約やチケットレス乗車ができるようになった。指定席券売機の設置に加えて,2020年3月からは「話せる指定席券売機」(アシストマルス)もごく一部の駅に設置している。JR東日本にとってはこれで窓口削減の対処ができたと考えているのであろう。並行期間はほぼなく,窓口削減が進んだ。

えきねっと指定席券売機みどりの窓口の代替となり得ない

 多くの利用者は電車に乗りたいのではなく,なんらかの目的があって目的地まで行くのであり,その最寄駅まで移動したいのである。駅はきっぷを売るのが仕事だが,多くの利用者にとってきっぷを買うことそのものが駅を訪れる目的ではない。

 みどりの窓口では利用者と出札係員のコミュニケーションにより費用や所要時間の最適な移動ルートを確定できる。一方で,JR東日本みどりの窓口削減の代わりとして整備した指定席券売機えきねっとは,目的地に行きたい人たちの心をへし折る。指定席券売機えきねっとも,もとは出札係員が操作するマルスが裏側にあるため,鉄道の知見が一定程度なければ最適な移動ルートのきっぷを買うことは難しい。またえきねっとJR東日本チケットレスサービスやポイントサービスを全面に押し出しており,画面上の情報が氾濫している。

みどりの窓口とアシストマルスでしか購入できないきっぷの例
特急「ふたつ星4047」カウンター席

 鉄道旅行に慣れた人にとっても,指定席券売機えきねっとだけでは不十分だ。多経路や発着駅が同一の乗車券を買えなかったり,臨時列車や特殊な設備を持つ列車の指定席が予約できなかったりする。

 えきねっと指定席券売機が使いづらいことについては,コロナ禍以前からさんざん指摘されてきたが,JR東日本はそれらを改善する気はなく窓口削減を強行した。結果として招いたのはストレスフリーな移動とは程遠い,窓口の行列だ。一定数の客離れもあっただろう。

 その後,訪日外国人の増加や,2023年5月の新型コロナウイルス感染症の5類移行により,コロナ禍で止まっていた人流が再開。旅行のきっぷや定期を買う人たちでみどりの窓口は大混雑して社会問題となっていく。

みどりの窓口復活へ

 2024年5月,JR東日本社長である喜勢陽一は謝罪のうえで,みどりの窓口の削減計画の凍結を発表した。

みどりの窓口を臨時で増やす駅*2

 続いて2024年7月,メディアなどによればJR東日本みどりの窓口を繁忙期の期間限定で増設するとしている。みどりの窓口の削減施策を完全に転換した形だ。みどりの窓口が残っている駅の窓口を増設することがメインだが,北千住や川越など窓口閉鎖した駅の窓口を復活させることもあるようだ。

 とはいえ,閉鎖されたみどりの窓口の多くはすでに業態転換して売店などになっている。復活できるみどりの窓口は限定的と思われ,これ以上の復活は期待できない。

伊東駅みどりの窓口(2022年6月)
3番窓口(左端)は閉鎖されたが復活する。

JR東日本は猛省を

 JR東日本労働組合機関誌にて,JR 東日本社員の言動として「消極的な顧客対応で利用者を教育させるべきだ」という旨の発言をした社員がいたことが2021年12月に取り上げられている*3。このような社員は少数派であると信じたいが,きっぷ発売に対するJR東日本の営業施策は「利用者を教育させる」ものと言っても違和感がない。つまり,需要の大きいみどりの窓口も容赦なく閉鎖し,慢性的な混雑を利用者に見せ,ネット販売へ強制的に行動変容させるということである。結果として,この傲慢で利用者目線に欠く施策は大失敗した。

 拙速で利己的な施策は利用者に受け入れられない。一方でいつまでも磁気乗車券が流通するわけにもいかず,中長期的な目線でいえば,乗車券類のデジタル化は進んでいくだろう。だがそれは,複雑で難解な旅客営業規則をシンプルにしたり,ユーザーフレンドリーなシステムを構築するなど,丁寧な課題解決のうえで行われることである。

 JR東日本みどりの窓口閉鎖のほかにも京葉線ダイヤ改正問題など,強引な施策により沿線利用者の顰蹙を買っている。独占的な立場を利用して強硬手段をとっても利用者は減らないと考えているのかもしれないが,大きな間違いだ。JR東日本はこれまでの施策を猛省し,乗客がなぜJR東日本に不満を持っているのか,もっと考えてほしい。


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